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こちらの情報は、企業様向けに取り扱い素材の情報提供を目的としています。一般消費者の方に向けた情報ではございません。
また特定の商品の効能効果を示唆するものではありません。

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FOOD STYLE21に『筋骨草エキス末』薬理記事が掲載されました。

FOOD STYLE21(2015年6月号)より抜粋

筋骨草

筋骨草エキス末のロコモ対応素材としての有用性

/ 松浦薬業㈱ 大野高政、今井昇治

はじめに

人は誰しも、年齢を重ねても人に頼らず、元気な毎日を過ごしたいと願うものである。

2000年にWHOが提唱した「健康寿命」という概念により、平均寿命を延ばすだけではなく、健康寿命を延ばして日常的に自立した生活を送れることが重要である、と考えられるようになった。日本人の平均寿命は2013年に男性が初めて80歳を超え、男女ともに80歳以上という世界有数の長寿国である。しかし、同じ年の日本人の健康寿命は、男性が71.19歳、女性が74.21歳であり、人生の最期の約10年間は健康ではなく、人に頼らなければ生活できないということになる。

日本人にとって健康寿命が終わる、すなわち「要支援・要介護」状態になる最大の原因は、運動器の障害(25.0%)であり、以下の脳血管疾患(18.5%)、認知症(15.8%)を大きく引き離している(厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査」より)。このため、運動器の障害(ロコモティブシンドローム)を予防・改善することは、健康寿命を延長し、生活の質(QOL)の充実につながると考えられる。

1.老化とコラーゲン

骨、関節、肌、目、歯茎など、人が老化を実感する組織はコラーゲンの含有率が非常に高く、かつ重要な役割を果たしている。われわれはこの点に着目し、コラーゲンの新陳代謝を活性化することは老化予防に役立つと考え、コラーゲン合成促進作用を指標として、食品素材のスクリーニングを行った(図1)。その結果、顕著な活性が認められた素材の一つである 筋骨草 をロコモ対応素材として開発するに至った。

骨の健康というと、カルシウムなどのミネラル量を指標とする骨量、骨密度がまず頭に浮かぶが、最近では骨の強度には、骨質が重要な役割を果たしていることが注目されており、この骨質の優劣に大きくかかわるのがコラーゲンである。

骨は網の目状のコラーゲン線維に、カルシウムなどのミネラルが付着した構造をしており、よく鉄筋コンクリートが例に挙げられ、コラーゲンは鉄筋、カルシウムなどのミネラルはコンクリートに置き換えられる。鉄筋コンクリートでの鉄筋の重要性を考えれば、骨においてコラーゲンの果たしている役割はいうまでもないであろう。

2.名は体を表す ~筋骨草の骨に対する有効性~

筋骨草 は、日本を初めとする東アジアに自生するシソ科、キランソウ(Ajuga)属植物の全草を乾燥させたものであり、古くから民間薬などとして発熱、気管支炎、咽頭炎、関節痛、打撲、出血などに用いられてきた。われわれは、筋骨草エキス末に顕著なコラーゲン合成促進作用が認められたことから、閉経後骨粗しょう症のモデルである卵巣摘出マウスの骨量減少を指標に評価を行い、エストロゲン枯渇による大腿骨重量減少、大腿骨カルシウム含量低下、腰椎コラーゲン量低下を顕著に抑制することを以前本紙1)で報告した。そのメカニズムは、骨芽細胞活性化作用、破骨細胞分化・誘導抑制作用であることも併せて報告した。また、骨粗しょう症によく使用される大豆イソフラボンとの併用でも良好な結果が得られ、筋骨草エキス末と大豆イソフラボンは相性の良い素材といえる。

卵巣摘出マウスの腰椎コラーゲン量減少に及ぼす影響について、以下に再掲する。卵巣摘出マウスは、卵巣摘出によって人工的にエストロゲン枯渇状態をひき起こすことで、著しい骨量の減少、骨密度の低下、骨の脆弱化をひき起こすモデルである2)。この状態は閉経後女性の状態と類似しているため、閉経後骨粗しょう症などの更年期障害のモデルとして広く使われている3)、4)。

図2 卵巣摘出マウスの腰椎コラーゲン量減少に及ぼす作用
ddY系マウス(雌性9週齢)に卵巣摘出手術を施し、閉経後骨粗しょう症モデルを作製し、卵巣摘出当日から12週間、筋骨草エキス末を自由飲水投与した。卵巣摘出12週後に、他の指標とともに腰椎コラーゲン量を測定した。コラーゲン量はhydroxyproline(HYP)量を指標とし、測定には比色法5)を用いた。その結果、卵巣摘出により、腰椎コラーゲン量は著しく低下したが、筋骨草エキス末の投与により、その低下は用量依存的に抑制された(図2)。

3.筋骨草の関節に対する作用

ロコモティブシンドロームの予防・改善には、骨の健康だけでなく、関節の健康も重要である。加齢と共に軟骨はすり減り、関節は変形し、痛みや機能障害を起こす。特に膝関節や股関節など、体重を支えるような大きな負担のかかる関節は障害を受けやすい。歩行をはじめとする日常の動作が困難になることより、活動範囲が狭まり、家に籠もって過ごすようになると認知症の症状が現れる人もおり、非常に大きな問題となっている。
このため、われわれは筋骨草エキス末の関節に対する作用も検討した。

1) 関節腫脹に及ぼす作用

Lewisラット(雄性7週齢)の右後肢にアジュバントを皮内注射することにより、関節炎モデルラットを作製し、10日目以降に現れる反対側の左後肢の浮腫(二次炎症)について測定した。陽性対象として、関節対応の医薬品やサプリメントによく用いられるグルコサミンを使用し、筋骨草エキス末との比較、および併用効果も検討した。

その結果、筋骨草エキス末投与群は、グルコサミン投与群よりも強い浮腫抑制傾向を示し、両者の併用投与群では、各単独投与群よりも作用の増強が確認され、有意な浮腫率抑制作用を示した(図3)。

2) 関節の組織学的解析

関節炎モデルラットの左後肢足首関節の組織観察において、青紫色に染色された炎症性細胞が広範囲に確認された。このことから、組織学的解析の結果、著しい軟骨破壊が生じていると考えられた。

グルコサミン投与群では炎症性細胞の滑膜中への浸潤と滑膜の増殖が認められたが、非投与(対照)群に比較して軽度なものであった。

筋骨草エキス末投与群では、若干の炎症性細胞の滑膜中への浸潤が認められたが、軽度であり、グルコサミン併用群では炎症性細胞の浸潤はほぼ認められなかった。また併用群では有意な炎症スコアの軽減が認められた(図4)。

3) 関節腫脹に伴う痛みに対する作用

フォンフライ試験(von Frey test)※により、機械的触刺激に対して逃避反応をひき起こす痛覚閾値を左後肢にて測定し、痛みに対する作用について検討した。各群の閾値は(g)で示し、閾値が低いほど痛みに対して敏感であることを意味している。対照群では、無処置の正常群に比べて閾値の低下が示されたが、筋骨草エキス末投与群では、対照群の低下を改善する傾向が認めれた(図5)。

※フォンフライ試験:無拘束の状態で、ラットやマウスの肢にフォンフライ式フィラメントで刺激を与えて行う痛覚テスト

以上より、筋骨草エキス末は関節の腫脹・炎症を改善することによって、痛みを緩和していると考えれた。この作用により、変形性関節症に対して有効性が期待でき、さらにその結果として、活動量などの全身症状の改善も期待できることが示唆された。

4.筋骨草エキス末の安全性

単回投与毒性試験、90日間反復投与毒性試験、および変異原性試験において、特に異常は認められず、いずれも安全性を確認している。

おわりに

筋骨草エキス末 は、健康寿命に最も影響を与えるロコモティブシンドロームの中で、特に骨と関節、すなわち骨粗しょう症や関節炎の改善に対し、有効であることを見出した素材である。

さて、ロコモティブシンドロームには骨や関節の他、筋力の衰えも関与するが、これらは互いに無関係ではない。関節の可動性や筋力の低下は、つまずきや転倒を招き、さらに骨粗しょう症が重なることで非常に骨折しやすくなる。また、骨折によって活動が制限されたり、寝たきりになると、さらなる筋力低下や肥満、認知症を招くというように、それぞれが影響しあって運動器全体だけでなく、全身の状態を悪化させる。

このように、ロコモティブシンドロームを改善するには、サルコペニアに代表される筋肉の委縮にも対応が必要であり、サルコペニアは、骨粗しょう症との合併率が高いことでも知られている。健康寿命を延長するためには、骨や関節だけでなく、筋力もともに強くすることが大切である。

現在、われわれはサルコペニアについての素材も開発中であり、近日中に紹介させていただけるものと考えている。

参考文献

1)小野裕香ら:筋骨草エキス末の骨粗しょう症対応素材としての有効性,FOOD STYLE21,10(9),56-59(2006)
2)中牟田弘道:卵巣摘出による骨減少症モデル動物、日本臨床、62巻増刊号2,759-763(2004)
3)Wang,X.et al.:Puerariae radix prevents bone loss in overiectomized mice.,J.Bone.Miner.Metab.,21(5),268-275(2003)
4)Kai M,et al.:Soybean isoflavones eliminate nifedipine induced flushing of tail skin in ovariectomized mice.,J.Pharmacol.Sci.,95(4),476-478(2004)
5)堀内登ら:生化学実習,医歯薬出版,101-102(2002)

おおの・たかまさ/Takamasa Ohno
松浦薬業㈱薬効薬理部
1996年 名古屋市立大学大学院薬学研究科博士前期課程修了、同年松浦薬業(株)入社、現在に至る
著書・論文:
1.服部辰彦,大野高政,土屋京子:5-アミノレブリン酸とカシスエキス配合食品摂取による手指および手背皮膚温の改善作用の検討,機能性食品と薬理栄養,8(6),539-548(2015)

いまい・しょうじ/Shoji Imai
松浦薬業(株)学術活用管理部
1981年 岐阜薬科大学製造薬学科卒業、同年松浦薬業(株)入社、現在に至る
著書・論文:
1.Yuka Ono, Yukitaka Fukaya, Shoji Imai, Tohru Yamakuni:Beneficial Effects of Ajuga decumbens on Osteoporosis and Arthritis, Biol.Pharm.Bull,31(6),1199-1204(2008)
2.Eri Hattori, Yukitaka Fukaya, Kiyoshi Iwashima, Shoji Imai, Mikio Ito:Collagen Synthesis-stimulating Action of the Extract of Pfaffia Glomerata Roots and its Constituent 20-Hydroxyecdysone, Oyo Yakuri/Pharmacometrics, 69(3/4),71-76(2005)
3.深谷幸隆,小野裕香,伊藤英里,今井昇治:肥満対応素材としての荷葉~荷葉エキス末の抗肥満効果~,New Food Industry,45(5),41-48(2003)

紅景天の美白作用剤としての可能性を抗加齢医学会で発表/松浦薬業

松浦薬業が取り扱う 紅景天 は、中国東北部、ロシアなどの北アジアやヨーロッパに自生するベンケイソウ科の高山植物で、滋養・強壮目的で用いられている。経口摂取で皮膚老化改善が期待できる素材の探索研究を行う中で、高山植物である紅景天が紫外線により誘導される防御物質を含有し、紅景天の摂取により紫外線抵抗性が期待できるのではないかとの仮説を立て研究を行った。

In Vitro試験では、DPPHラジカル消去能、チロシナーゼ阻害作用を確認。DBA/2マウスを用いた紅景天投与試験では、その含有成分であるsalidrosideを経口投与した時と比較した。1時間後にUVB照射(90mJ/㎠)する処置を9日間繰り返し、最終照射の翌日に耳介部皮膚を採取してチロシナーゼ活性化メラノサイトをDOPA染色により検出すると、UVB照射でマウス耳介のDOPA陽性メラノサイト数が有意に増加し、チロシナーゼ活性化が認められた、。これとは別にあらかじめUVB照射(180mJ/㎠)を15日間行ったマウスに、紅景天を1または2週間経口投与して、最終投与1時間後に耳介部皮膚を採取し、活性化したチロシナーゼに対する阻害作用を検討したところ、UVB照射前、あるいは照射後に紅景天を投与した群、また、UVB照射前にsalidrosideを投与した群において、DOPA陽性メラノサイト数が有意に減少した。

同社では、紅景天のDPPHラジカル消去能や、UVB照射1時間前の経口投与によるDOPA陽性メラノサイト数の有意な減少は、紅景天が紫外線照射によるラジカル産生を抑制し、その結果としてチロシナーゼ活性が阻害されたものとみて、salidrosideがその活性成分の1つであると考えている。さらに、紅景天がチロシナーゼ阻害作用を示し、UVB照射後の経口投与においてもDOPA陽性メラノサイト数を有意に減少させたことから、日焼けやシミに対する予防、および改善が期待できる経口美白剤としての可能性が示唆された。本研究は5月30日に行われた抗加齢医学会で示説発表された。

 

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